「磯蔵新聞」連載記事

蔵の会だより
稲里を愛し、応援してくれる人たちがいます。その「おいしかった」の声が、磯蔵スタッフにとって何よりの励みなのです。もちろん、時には愛すればこその厳しいお叱りも。このコーナーでは、そうした稲里のサポーターとも言うべき方々へのインタビューをご紹介しておりますが、今回は特別企画の第三弾、「石透水を掘り下げる」と、題し磯蔵のルーツにせまります。

←第10回へ



第11回(2008年秋/第12号より)

特別企画 「稲里のルーツを探す」 第三回 石透水を掘り下げる

酒に欠かせない三大要素の一つ「水」

 当蔵は、スサノオノミコトの奥さんイナダヒメを祀った稲田神社があり、古くから「稲の郷(里)」と呼ばれた笠間市稲田にて、石が幾らでもある場所だから磯と名乗り農家として稲作をしておりましたが、地元の御影石の岩盤から染み出した「石透水」に着目し酒造りを始めたことは、磯蔵新聞6、7号でお伝えした通りです。今回は、現在のような科学の発達が無かった江戸末期に「石透水が日本酒の仕込水として優れている事をどうやって判断したか?」を掘り下げることにより、更なる磯蔵ルーツに迫ってみようと思います。
○●○●○
イベント用に瓶詰めされた石透水

 御影石は花崗岩と呼ばれ石灰石で出来ている為水の濾過作用があり、鉄分等、酒造りに不必要な要素を取り除いてくれるので、石を浸透してきた地下水「石透水」はとても優れた仕込水と言えます。

 しかし、科学が発達した現代ならともかく、顕微鏡も無い江戸時代に農家であった磯家が、突然試験醸造もすることなくどうして石透水を酒造りに適している水と判断することができたのでしょうか? 

 これはあくまで想像に過ぎませんが、その背景には酒どころ「灘」とそこで使われる仕込水「宮水」の存在があったのでは?と、当蔵では考えています。

 言うまでも無く「灘」は今も昔も日本一の酒どころ。そんな「灘」には現在の神戸市灘区花崗町という場所があります。この「花崗」は花崗岩(かこうがん)の花崗を意味し、そしてなんと「花崗町」と書いて「みかげちょう」と読み、当時、花崗町で採れた花崗岩がいわゆる「御影石(みかげいし)」と名付けられることになったそうです。

 また「宮水」も「灘五郷」として数えられる現在の西宮市で汲み上げられ、六甲山の花崗岩層を通り抜ける鉄分の少ないこの天然水で、現在でも日本を代表する仕込水の一つとなっています。

 少々ややこしい話になりましたが、当蔵の先祖は「酒どころ『灘』が御影石発祥の地であり、そこで汲み上げられる宮水が日本一の仕込水なのであれば、同じ御影石が採れるこの稲田の地下水も酒造りに適しているはずだ」と考えたのではないのでしょうか?

 そうして当蔵は江戸末期より、御影石の大地より汲み上げられる石切山脈地下伏流水を「石透水(せきとうすい)」と名付け、 自分達が造った米と共に酒造りを開始。敷地内数々の酒蔵・米蔵に因んで屋号「磯蔵」と呼ばれるようになりました・・・と此処まで話を進めてきて言うのもなんですが、この「石透水」と「宮水」、現代の科学力により分析してみますと・・

◆石透水・・・
 石切山脈と呼ばれる山々の花崗岩層を通り抜け、笠間盆地の中央に集まった伏流水。ミネラル成分は控えめで、よく言えばとても綺麗な水でピュアウォーターだが、醗酵力の強い所謂ミネラルウォーター系では無い。水質は軟水に分類される。酒造りに害となる鉄分(酒の色や味の仕上がりを損なう)は極めて少ない。

◆宮水・・・
 六甲山の花崗岩層を通り抜けてきた水と夙川の伏流水、そして海水が微妙にまじりあった水と考えられている。鉄分が少なく、逆に酵素の作用を促進するミネラル成分は多く含まれ酒造りにはもってこいと言われているが、意外に塩分も多い。水質は、中硬水(国内の水では珍しい)。

 上記のように、お互い酒造りの害となる鉄分こそ少ないものの、ミネラル分は石透水は軟水、宮水は硬水と全く逆の結果となってしまいました。では、どちらが優れた仕込水といえるのでしょうか?こればかりは目指す酒の味次第でしょうが、現在の当蔵の石透水に対する見解は以下の通りです。

 水の分析技術や顕微鏡が無い時代、醗酵が「どうか美味しく腐って下さい」であった時代なら醗酵力の強い硬水に分があったかと考えますが、酒造技術が研鑽され、科学の発達により理想の醗酵にどんな成分がどの位必要なのか知ることの出来る現代においては、必要な味わいは我々の技術により生み出し、その邪魔をする要因となる不必要なミネラルが少ない軟水こそ、目指す「旨さ」を再現しやすい優れた仕込水と当蔵は考え、そんな石透水を「此処で酒を造る理由」のひとつとして守ってきた先祖、そしてなにより、茨城、笠間、稲田の大自然に感謝しながら、使用しております。

磯蔵酒造有限会社/茨城県笠間市稲田2281番地の1/電話(0296)74-2002


「磯蔵新聞」トップへ戻る「磯蔵新聞」トップへ戻る