「磯蔵新聞」8剛特集記事

田んぼで磯家崩壊の危機 ワガママ蔵主が米造りに挑戦

 磯貴太専務(以下、磯)が蔵主を務めて以来、地元でとれた米で酒を造ることに力を注ぐ磯蔵酒造。それは、「磯蔵酒造は元々、農家であり、自分たちが地元で造った酒米で酒を造り、地元に飲んでもらうのが、磯蔵の酒造りの原点だ」という磯の考えがあるためだ。しかし、こうした磯の頑ななまでの思いが、このほど磯家に崩壊の危機を招くこととなった。

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酒米を手刈りする農家のお母さん

酒米を手刈りする農家のお母さん。未来の光子さんの姿であろうか?

 これまでの取材の中で磯は、「私が蔵に帰ってきた当時、磯蔵で使っていた酒米は一〇〇%県外産だった。その後、磯蔵の原点を取り戻すべく、十数年間努力を続け、現在は、腕利き農家十三件との『本物の地酒を造る会』にて、地元産の比率を六五%まで上げることができた」と話していた。一方で磯は、現状に満足しておらず、「元々農家の磯蔵なのだから、せめて一町歩ぐらいは自社で有する圃場で酒蔵のスタッフが作る酒米がなくては、磯蔵の原点を取り戻したとは言えない」と、酒造りと米造りの深い関係を熱く語っていた。
 だが、かつては農家であった磯蔵も、現在では保有していた圃場のそのほとんどを売却、わずかに残った圃場も米作条件が悪く荒れ放題で田圃がどこであったかさえ分からないような状態だという。「いくら腕利きの農家が支援してくれるとはいえ、ずぶの素人である磯蔵スタッフがどうこうできるものではない」と磯。さすがの磯も、これ以上の無理難題は口にしないだろうと、同蔵関係者らは、胸をなで下ろしていたという。

 その頃、磯蔵近隣の農家が高齢で、後継者もないことから田圃を手放すという話が磯の耳に届いた。面積はちょうど一町歩。驚くほどの低価格。磯は購入を前提に蔵のスタッフや世話になっている酒蔵の先輩などに相談。しかし皆から返ってくる答えは、「今、圃場はいくらでも余っている。借りたほうが良い。買うのは馬鹿馬鹿しい」。確かに、現在日本の農業は数々の問題を抱えており、休業者や廃業者が相次いでいる状態だ。
 だが、融通の利かない磯は、「借りるのと買うのでは心構えが違う。当蔵酒造りの理想に近づくためには、揺ぎ無い決意の表われとして自社保有の圃場が必要だ」と言い、周囲が止めるのも聞かず、銀行で借り入れのための交渉を開始。田圃を担保にOKの確約を取り付け、購入の準備、売主との交渉もスムーズに進み、後は農業委員会に審査してもらうのを待つばかり…となったという。

 磯から、「田圃を買うことになったから取材に来て」との依頼を受けた記者が、いそいそと磯蔵に行くと、静かな酒蔵に電話が鳴り響いた。電話の主は、磯蔵がお世話になりっぱなしの会計士T氏だ。電話口でT氏は「田圃は買えませんよ」と言う。「はっ?」。「いや会社では田圃は買えないんです」。「え? なんで?」。「農業法人として登録がない会社は、農地の購入はできないんです」。「だってうちは元々農家だし」。「ええ。だから磯さん個人なら買えるかもしれません」。「私は買えるんですか?」。「はい、農業従事者として実績のある磯さん個人での購入なら、農業委員会の審査も問題なく通るかと…」。
 電話を終え、頭を抱え込んでしまった磯は、「田圃を買う。そんなお金は逆立ちしたって出てきやしない」とつぶやき、さらに、「私に金などない。今、うちにある金はカミサンが三人の子どもとジイサンバアサンを乗せて買い物に行ける車が欲しいと、溜め込んでいる頭金だけ…このお金…頭金…そうかっ! これだっ!」。そう叫ぶと、今度は貯金通帳を握り締め銀行へと向かった。慌てて記者が追い掛けると、磯は「このお金を頭金に田圃を買いたいんです。お金を貸してください」と叫んでいた。渋る支店長を得意の口からでまかせで言いくるめ、融資の確約を取り付けると、「これで晴れて自分の田圃で米作りが出来る!」とご機嫌。ウキウキした顔で売主と契約し、支払いを済ませると権利書を抱え、スタッフと家族の待つ家路を急いだ。

 蔵に着きスタッフに報告すると、スタッフは皆「長年の夢が叶えられる」「頑張っていい米を作りましょう」と大喜び。さらに気を良くした磯は、何の前フリもなく、奥さんの光子さんにも報告…「はぁ? 田んぼ買った? えっ、一町歩? なんで? それで? お金は? …ふざ!#私相д談И無б実ж帰$ピーーーッ」…さあ大変。磯はただただ頭を下げるのみ。居合わせた記者は、あまりの恐ろしさに逃げ出す始末だった。
 後日、気を改めて取材に訪れると、磯は「本気で怒ったカミサンの恐ろしさは、私しか知らないでしょう、もう二度と怒らせません」…と大きな体を小さくしたまま、「いろいろありましたが、ついに磯蔵は念願の圃場を手に入れることができました。来春には磯の田圃での米作りが始まるでしょう。しかし、田植えをするには、まだまだケアが必要です。それは素人集団の磯蔵のこと、米作りの苦難は後を絶たないでしょう」と神妙な面持ちで話した。「苦難は、ワガママ蔵主の夫婦関係にも言えるのでは?」と、突っ込む記者の質問に答える余裕はなかった。
 果たして、前途多難な磯蔵の米作りはどうなることか? はたまた磯家の平和はいずこ? 磯蔵の酒造りやいかにっ?! 磯蔵には、記者魂を揺さぶるネタがまだまだありそうだ。

磯蔵酒造有限会社/茨城県笠間市稲田2281番地の1/電話(0296)74-2002


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